約 1,319,766 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1152.html
まるで鮮血で染まったかのような紅い空で、二つの影が、同じく二つの月をバックに対峙していた。 一つの影は、シルフィードを駆るタバサ。 そして、もう一つは右手に杖を握り、フライの魔法で浮遊するルイズであった。 普通ならば、このような対比は有り得ない。 何故なら、フライの魔法で飛行していると、他の魔法を使う事が出来ず、戦闘では的以外の何者でも無いからだ。 しかし、ルイズは違った。 フライの魔法で空を飛んでいた所で、今の彼女にはホワイトスネイクが居る。 生半可な魔法など、その両の手で叩き落し、接近戦であるならば、通常の人間以上の動きで攻撃を仕掛けてくる。 さらに、その手は頭部に触れると問答無用で対象の『記憶』をDISCとして引き出し、魔法すら奪う、悪魔の手だ。 近づけば負ける。 だが、それは反面、近づかなければ負けないと言う事でもある。 フライの魔法は空を飛ぶのに確かに便利であるが、風韻竜である自分の使い魔には速度と移動距離、共に劣っている。 さらに言えば、向こうはフライで飛んでいる限り、接近戦しか出来ないが、こちらは魔法を遠距離から唱えられる。 相性的に言うのであれば、自分達は敵に勝っている。 しかし、タバサは心の底から湧き上がる不安感を拭い去る事がどうしても出来なかった。 「ウオシャアアアアアアアアアアア!」 獰猛な毒蛇を思わせるホワイトスネイク独特の声と共に繰り出されるラッシュは、ルイズの元へ飛来してくる氷の矢や空気の塊、風の刃を全て叩き落す。 今の所、ルイズにダメージはゼロだが、それは向こうにも言えた事。 攻撃を叩き落しながら、シルフィードを追いかけているルイズであったが、向こうのスピードは自分のフライの速度よりも速く、このままでは何時まで経っても追いつく事が出来ない。 追いつけなければ、自分のホワイトスネイクを、あのクソ生意気な眼鏡の顔に叩き込む事が出来ないのだ。 (空中戦じゃあ勝ち目が無い! でも、だからってどうすれば良いの!?) 二度目であるはずのホワイトスネイクの戦闘運用であるが、効率的な運用方法がルイズの頭には浮かんでこない。 戦いとは、装備やそれを使う者の能力も必要であるが、最も重要なのは経験である。 何時、何処で、どのようなタイミングで繰り出すのが効果的なのか。 戦闘のセンス、或いは。戦術的な戦い方。 それらを鍛えるには、戦いの中で、自分で学び取るしかない。 一度目の戦いの時は、そんなものは必要無かった。 ホワイトスネイクは相手のワルキューレの何もかもを上回っていたし、勝負自体も一瞬で片付いた。 しかし、その一瞬で片付いた所為で、ルイズは戦いにおける経験を、まったくしていない。 模擬戦すら、まともに行っていないルイズには、諸事情により、ちょっとした百戦錬磨になっているタバサの相手は荷が重い。 「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース」 タバサの詠唱が空に響く。 先程の氷の矢では無く、一回りも二回りも大きい、氷の槍。 蛇のようにシルフィードを回るその槍が、一直線にルイズへと襲い掛かる。 「ホワイトスネイク!!」 「不可能ダ」 あのサイズともなると、完全に弾くのは無理がある。 元の自分の性能なら可能だろうが、ルイズが本体となってから、ホワイトスネイクの破壊力は一段階下がっている。 無理を悟ると、ルイズはフライの魔法を切り、朱色の空から落下する。 その後を追うジャベリンに、キュルケのDISCから引き出した炎が喰らいつく。 外面は一気に気体にまで昇華させたが、芯は、まだ形を保っている。 「弾きなさい!!」 右腕を振るい、小さくなった氷の槍を弾く。 しかし、魔法による串刺しは免れたが、目の前まで迫った地面による死が間近に迫っている。 フライ、否、間に合わない!! 「なら、浮きなさい!」 フライよりも詠唱の短いレビテーションにより、墜落死の運命を書き換える。 だが、浮かぶ事しか出来ないレビテーションは、フライなどよりももっと、もっと簡単に当てる事の出来る的であった。 「来ルゾ!!」 二本目のジャベリンが、ルイズの身体に風穴を開ける為に、放たれる。 冗談じゃない。こちとら、嫁入り前なのよ、 すでに地面に近かった為、レビテーションを切り、地面へと着地する。 そして、ありったけの魔力を込めた火球をもう一度、ジャベリンにぶち当てた。 ジュウウウウと言う耳に残る音と共に、結びつきを無くす氷達は、芯すら残さずに空気中へと拡散する。 そうして拡散した水蒸気は、霧雨のようにルイズとホワイトスネイクを取り囲む。 「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」 そして、紡がれる詠唱。 その詠唱にルイズの頬が引きつった。 この呪文は、確か空気中の水蒸気を凍らして、氷の矢とする呪文……即ち――― 「チェックメイト」 タバサの無機質な声が、終わりを告げる。 ルイズの周囲を囲む水蒸気が、一瞬にして50を優に超す数の氷の矢に変質し、目標へと一斉に放たれた。 キュルケは走っていた。 いや、片足を引き摺り、動く度に口元から溢れ出る朱色ののものを拭う彼女は、予想以上に歩みが遅く、彼女は走っているつもりでも、他人から見ると歩くよりも遅く歩を進めていた。 顔は苦悶の表情しか表さず、動くだけで激痛を彼女が感じている事を物語っている。 だが、止まらない。 否、止まれない。 「すっごい……わがままなのよ……私はっ!」 紅い液体と共に吐かれた言葉は誰に向けたものなのか。 少なくとも、自身では無い。 キュルケは、基本的に良い奴と言う認識が、学園ではされている。 勿論、その明け透けな性格から恨みを買う事も多いが、友人間の間では広く信頼され、頼りにされている。 だが、キュルケ本人は自分の事を、すっごい我侭な奴と思っている。 自分は、自分のしたい事しかやっていない。 誰かを好きになったから、その人と愛を語り、誰かが困っているなら、自分が相談に乗りたいから相談に乗る。 元にあるのは全て、自分の意思。 これを、我侭と言わずなんと呼ぶのか。 キュルケは、くすりと微笑みと血を口元に張り付かせる。 今だってそうだ。 あれだけ拒絶され、殺されそうになるぐらいに恨まれている娘に自分は会いに行こうとしている。 あの娘らしく無い。 ただそれだけを戒め、そして出来ることであるならば、また共に歩きたいと思うが為。 言ってしまった言葉は戻らない。 やってしまった行動は覆らない。 「だから……どうしたって……言うのよ」 そんなことは知っている。 だから、どうした!? 覆らないのならば、戻らないのならば、償わなければならない! そうだ……向こうにそんな気が無くたって、私は、私は!! 「私は……あの娘の味方でありたい―――!!」 最後まで絶対に諦めない!! 周囲を囲む50を超す氷の矢に、ルイズの思考は一瞬停止する。 頭に浮かぶのは、氷の矢で串刺しになり、屍を晒す自分の姿。 それがあんまりにも、おぞましくて、ルイズはその運命に抗った。 「アァァァァアアアアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!」 天を轟かさんばかりの咆哮と共に、ホワイトスネイクの腕と足が、ルイズを中心に四方八方へと繰り出される。 拳打と蹴打の結界。 限界を超えんとばかりに振るわれる四つの衝撃の前に、氷の矢は次々に塵芥へと還っていく。 その数―――10―――20―――30―――40―――44!! 44も守りぬけた事を褒めるべきなのか、それとも、完全に守りきれなかった事を貶めるべきなのか。 ホワイトスネイクの拳が44個目を砕いた時、続く45本目がルイズの右肩を貫いた。 「あぐっ!」 スタンドのダメージが本体に伝わるように、本体のダメージもまたスタンドへと伝わる。 ルイズの右肩のダメージにより、右腕を使用できなくなったホワイトスネイクの結界に綻びが生じる。 46、47本目を砕くが、48本目が今度は、ルイズの横っ腹を直撃した。 同時にホワイトスネイクにもダメージが伝わり、動きが一瞬停止してしまった。 後は、もうどうにもならなかった。 なんとか頭部へと覆い被さる事で、本体の頭へと矢が刺さる事を阻止したが、それ以外の場所には余す事無く矢が突き刺さる。 「――――――ッ!!」 もはや、声すら出なかった。 殺到する氷の矢は、強姦魔の如く、少女の身体を自らの身体を持って陵辱する。 穿った場所から滴る血は、氷の矢が纏う冷気により、瞬時に固まり、無用に血で彩るのを禁止する。 それは、一つの彫刻であった。 少女から生える、無骨な氷の長躯。 彩るは、鮮血の朱色と桃色の細糸。 黒のローブを地とするそれらは、見る者にある種の感動すら沸き上がらせるだろう。 まだ幼き少女を、その彫刻へと変えた蒼の少女は、自らが駆る竜から降り、地面へと降り立った。 蒼の少女は、竜に何事かを伝えると、竜は僅かに頷き、空へと消えていく。 それを確認してから、少女は右手に杖を握り締めながら、ゆっくりと口を開いた。 「復讐に我を忘れ、力に酔った貴方は……危険」 それは果たして、桃色の少女にだけに向けた言葉だったのか。 蒼色の少女が、桃色の少女を見る目は、まるで自分の末路を見るように、絶望に彩られている。 復讐の失敗者を処断する、復讐者。 その、あまりの憐れさに、蒼色の少女は絶望していた。 絶望していたが……油断はしていなかった。 彫刻と化した少女から漏れる僅かな呼吸音。 驚くべき事だが、あの少女は、全身を氷の矢で貫かれていながら、まだ生きているのだ。 おまけに、その絶え絶えな息は、規則的では無く、少女が今だ意識を保っている事をタバサに告げていた。 「このまま、貴方を生かしておく訳にはいかない」 もし、このまま彼女を生かしたままとすると、彼女は間違いなくタバサの前に立ち塞がるだろう。 自らを傷付けた、その代償を貰いに―――――― 今回は、辛くも勝利したタバサであるが、次がどうなるかは分からない。 いや、今回のような真っ向勝負になるのなら、まだ良いが、日常に、あの白い使い魔が牙を剥いて来たとしたら…… ルイズを生かしておく事に、メリットなど存在しなかった。 「完全なるとどめを……刺す……」 他の学生達と違い、ある事情から自国の厄介事を請け負っているタバサは、人を殺した経験も勿論あった。 初めてで無い事に躊躇いなど存在しない。 ただ、ルイズを殺したら、キュルケと、これまで通り友人してやっていけなくなるであろう事を考え、それだけが胸に僅かな痛みを抱かせた。 (…………ごめんなさい) 心の中で友人に謝罪し、詠唱を始めようとした時、ルイズの身体が小刻みに振動し始めた。 「――――――くっ―――くくっ―――クククッ―――ク――――」 笑いを必死に噛み殺しても、噛み殺しきれない笑いが喉を、身体を揺らしている。 その認識にタバサが至ったと同時に、杖を握っていた右腕に激痛が奔る。 焼き鏝を直接当てられたかのような痛みの原因は、地面から伸びる青銅の剣。 鉄よりも柔らかいが、肉を断つには、まったく問題無いそれが、タバサの右腕に突き刺さっているのだ。 咄嗟に呪文を放とうしたが、今度は槍が地面から生え、杖を弾き飛ばす。 「あは―――あはは―――アハハハハハハハハハハハハッ!!!」 そんなタバサを、ルイズが哂いを噛み殺すの止め、耳元まで裂かんばかりに口を開き、禍々しいまでの嘲笑を持って、見つめていた。 その顔に苦悶は無く、まるで痛みすら感じていないようである。 「不思議かしら? あんな串刺しにされながら、呪文の詠唱を終えていた事が? んっ?」 ルイズの言葉に、タバサは耳を貸さない。 確かに疑問はある。 あんな傷だらけの身体では、痛みによって詠唱の為の集中など出来ないであろうに、彼女は自分が降り立つまでに錬金の詠唱を終えていた。 それは、つまり、あの串刺しの最中から詠唱をしていた事に他ならない。 「私のホワイトスネイクは『記憶』をDISCとする。 そして抜かれたDISCの『記憶』を失う。 これはその応用なんだけど、『痛覚』を『記憶』DISCにして抜いた訳よ。 痛覚さえ無ければ、痛みで詠唱の集中を邪魔される事も無かったわけ」 耳を貸すな……あれは、優越から来る油断だ。 今、この状況を打開するには、この油断の最中しかない。 考えろ、考えろ、考えろ。 この状況を打開する手段を。 「正直、あんたがここまで頑張れるなんて思わなかった。でも、それもお仕舞い。 ホワイトスネイク! あいつのDISCを私の手に!!」 傷だらけの白い身体が、歩き始める。 ルイズの元から離れ、ゆっくりとタバサの方へと。 「怖がる事は無いわ。 あんたの場合は、『才能』も『記憶』も両方奪ってあげる。 苦痛なんて無い……だから安心して、眠りなさい」 謳うように諦めろと言うルイズにタバサは、僅かに口に動かす。 「――――――――――――」 「何? 何か言い残す事でもあるの?」 遺言ぐらいなら聞くわよ、と言うルイズに、タバサは確りと首を振り 「遺言では無い。もう十分と言った」 確りした口調でそう言った。 「もう十分? 何、もう十分戦いましたとでも言いたいの?」 「もう十分引き付けた。後は貴方の仕事」 タバサの言葉に答えたのは、風を切り裂くブレスの轟音であった。 「風竜!? そんな、今まで何処に!?」 ルイズは知る訳が無い。 頭上でブレスを吐いたその竜が、すでに絶滅されたとする風韻竜であり、その身を今まで先住魔法により、空と同化させていたなどと。 いや、知っていた所で、これからの結末を変える事など彼女には出来なかった。 「ぐっ、ぐぐぐぐっ―――!」 無理矢理に身体をブレスの着弾点から移動させようとするが、彼女の身体の足は、すでに足として機能できないまでに壊れている。 例え、痛覚が無くなっていたとしても、壊れているモノは動かない。 頼みの綱のホワイトスネイクも、タバサの近くへ行っている為に間に合わない。 「――――――――――――――――――あっ」 今まで立っていた事が奇蹟のルイズの身体は、無理矢理に動かした事により、 ゆっくりと地面へと倒れ落ちようとしていた。 このまま倒れ落ちたら、多分、死ぬ。 いや、倒れなくても、このままブレスの直撃を受けて…… そこまでルイズの思考が辿りつくと、その先は、もうゼロだった。 何も考えられない。 何も考えたくない。 無我の境地と言えば聞こえは良いが、それは、現実を拒否する者の至る所。 忘却の果てのゼロに至ったルイズは、ぽかんとした顔で自分を完膚無きまでに 破壊するブレスを見上げ――― 「ルイズ!!」 何処か懐かしい、赤髪の少女に突き飛ばされた。 「そうして……君は“此処”に辿りついたと言う訳か…… ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 何もかもを委ねたくなるような、壮言な響きにルイズは、顔を上げた。 そこには、柔らかそうなキングサイズのベッドに身体を横たえ、ワイングラスを片手に大きな本を読む半裸の男が居た。 何者だろうこの男? いや、それよりも、此処は一体? 「“此処”において名などあまり重要では無い そんなモノで分類できるものなど、存在しないのだからな。 まぁ、それ以上に、私にとって名前は、意味は無い。 所詮、今の私は、君のスタンドの『記憶』から作り出された残滓なのだからな」 人の考えを読むように、疑問に答えた男は、僅かにワイングラスを傾け、それを口元へと運ぶ。 「そして“此処”だが……“此処”は君の中だよ、ルイズ」 私の……中? 「正確には、君の中に居るホワイトスネイクの『記憶』と 君の中の『才能』により、復元された『世界』だ」 どういう意味? 私の才能? それに世界って…… 「本来、ホワイトスネイクは『記憶』を扱う能力しか無い。 だが、あるスタンドと融合する事で、人々を天国へと到達させる存在へと成る。 あぁ、そんな怪訝そうな顔をするな。天国と言っても精神的なものだ。 何も、全ての者を死に絶えさせる存在じゃあ無い。 特異点へと加速をし『ゼロ』へと至る、そのスタンドの名を 『メイド・イン・ヘヴン』と呼ぶ」 そこで、一拍置き、私の理解できない頭を余所に男は話を続ける。 つうか、さっきの質問の答えにまるでなって無いわよ。 「天国へと至る為に、最も必要なのは特異点へ『ゼロ』へと至る事だ。 何故ならば、時の加速は、『ゼロ』に対する引力によって行うからであり、その場所に至らなければ、天国を実現することなど夢のまた夢」 さっきから『ゼロ』『ゼロ』『ゼロ』腹が立つんだけど…… と言うか、あんた、一体何が言いたいの? 「済まなかったな。では簡潔に言うとしよう。 ルイズ、君にはすでに天国へと至る準備が整っている。 特異点であるはずの『ゼロ』を内包し、天国へと至った『記憶』を持つホワイトスネイクを従える君には、辿り付けるはずなのだよ。 我々が望んでやまなかった。全てが『覚悟』を元に、運用される、天国に……な」 言っている事が訳分からないし、まぁ、でも、なんというか…… あんた……私に何かやらせる気なの? 「私がやらせる訳では無い。 全ては引力により、動いている。 人が誰と出会い、誰と恋し、誰と殺しあうのか。 全ては引力により決定され、我々にそれを変える術は無い。 その術を持つのは、『始まりから終わり』を持っている君だ。 君だけは、どんな世界であろうと『運命』の束縛に縛られる事は無い。 故に、君が天国へと至るのであれば、それは君の意思によるモノだ。 なぁに、難しく考える事では無い。 残念だが、今の君ではまだホワイトスネイクすら完全な性能で扱えていない。 今は成長の時だよ、ルイズ。 友と競い、学びあい、談笑しろ。それが君の精神を高め、スタンドを強める鍵となる」 …………私に……そんな相手なんか…… 「果たしてそうかな? 忌み嫌う相手だとしても、少し見方を変えるだけで、違って見えてくる。 私もそうだった。見下し、忌み嫌っていた相手が、無くてはならない友であることに気が付いた。 今では、もはや彼と私は文字通り、一心同体だがね」 ………………………………………………………………………… 「さぁ、目覚めるが良いルイズ。 君にとって必要な友を助けるか助けないかは、君が判断すれば良い」 ……助ける? 私……誰を助け………… ――――――ルイズ!!―――――― …………キュルケッ!! なんで!? どうして、私なんか…… 貴方の才能を奪って『ゼロ』にしたのは、私なのに……どうして!? 「それが友と言うものだからだ…… さぁ、もう行くが良い。それと、このホワイトスネイクに残滓として残っている『世界』を君に預けよう。 どうせ、『記憶』に過ぎない私には扱う事など出来ないのだからな。 もう、僅かな力しか残っていないが、相応しい持ち手にDISCの選定者である君が渡してくれたまえ……」 男はそう言うと、私の頭に、自分の頭から取り出したDISCを挿し込む。 すると、ベッドしか無かった空間に靄が掛かり、少しずつ何もかもが消えていく。 そうして、全てが消えたと同時に、私の頭は、この出来事すら忘れて現実へと帰還していった。 「キュルケッ!!!」 ルイズは、自身を突き飛ばした赤髪の少女の名を叫ぶ。 自身を呼ぶ声に気付いたキュルケは、ルイズへ微笑み、最後に鮮血で真っ赤に染まっている口元を動かす。 ――――――ごめんなさい―――――― それが謝罪の言葉であると理解した瞬間、ルイズの頭を血が駆け巡る。 もうキュルケのすぐ傍まで迫ったブレスが、彼女を吹き飛ばすのに、後一秒も掛からない。 一秒……それで十分だ。 何が十分なのか良く分からないが、とにかく十分だとルイズは感じていた。 その感覚は、吐き気を催す程の不快さをルイズへと与えてくるが、それに耐え、ルイズは、自分の身体に宿る、ホワイトスネイク以外の何かを『発動』させた。 キュルケは死を『覚悟』していた。 無論、自分には、まだまだ先があり、これから先、もっと生きていたいと言う欲求は確かにあった。 しかし、その欲求は、目の前で今にもブレスでバラバラにされそうな少女を見殺しにしてまで叶えたい願いでは無かった。 穴だらけのルイズを突き飛ばし、自分もブレスの着弾点から離れようとしたが、 すでにホワイトスネイクに踏みつけられた事で負傷をしているのを、鞭を打って移動していたキュルケの身体は、最悪のタイミングで限界を迎えてしまった。 先程のルイズと同じように崩れ落ちる身体。 ふと、キュルケはルイズと目が合った。 色々と言いたい事はあったが、この一瞬で伝えられる事は限られている。 だからこそ、彼女は、心の底からの謝罪の言葉を口にした。 「ごめんなさい……」 残念ながら、満足に口が動かず発音は出来なかったが、なんとか伝わってくれただろうか。 そんな疑問を胸に抱きながら、キユルケは死を受け入れようと目を瞑り…… 凄まじい衝撃音を耳にした。 あぁ、自分は死んでしまった、とキュルケは感じた。 あの物凄い轟音は、ブレスが着弾した音で、自分はその着弾点の中心でその音を聞いている。 (死ぬ時ぐらいは、もっと静かに死にたかったと言うのに……耳を塞げば、聞こえなくなるかしらねぇ) ルイズを助けた事で、何も思い残す事は無くなったキュルケは、何時も通りのノリに戻り、他愛も無い考えをつらつらと考えていた。 (お迎えは、まだかしらねぇ……と言うか、あの世に良い男って居るのかしら?) まぁ、あの世なんだから、良い男ぐらい居るでしょ、と自分で自分の疑問に答えたキュルケは、なんというか、違和感を感じ始めていた。 死んだはずだと言うのに、なんというか、痛い。 ルイズの使い魔に、踏みつけられた背中と、たぶん中身のどれかが潰れた腹の中が、もの凄く痛い。 (何よ! 死んでも痛みって感じるなんて、ちょっと! どう言う事よ!?) そんな理不尽な文句を、誰とも言えぬ誰かに言っていたが、 何者かに身体を抱き起こされる感覚に、キュルケは閉じていた目を開く。 そこには、桃色の髪を血で紅く染め上げた少女が、泣きそうな顔で自分を見つめていた。 ―――ルイズ……なんで?――― 疑問を口にしたかったが、声が上手く出ない。 それでも、ルイズには伝わったのか、自分もボロボロな癖に身体を持ち上げ、なんとか立ち上がらせてくれる。 そうして、見えたきた光景にキュルケは目を丸くした。 自分のすぐ横、その地点が、滅茶苦茶に抉れている。 間違いなく、シルフィードのブレスによる痕跡である。 しかし……何故? キュルケは、自分は確かにあそこに居たはずなのに、何故、位置がズレているのか、 もの凄く疑問だったが、その事をルイズに訊ねる前に、自分の頭に何かが入ってくる感触が彼女を襲っていた。 その何かは、まるで最初から自分の頭の中にあったように、ピタリとハマり、キュルケの中にあった喪失感を、まるごと消去する。 「……返す」 素っ気無いルイズの言葉に、キュルケは、ようやく、この少女が自分を取り戻してくれたのを悟るのであった。 ホワイトスネイクは、最初、何が起こったのか理解していなかった。 ただ、上に居る竜の吐いた何かに本体が潰されるのを、赤髪の女が庇い――― その女が、まるで『時を止めた』かのように、着弾点から一瞬で移動していた。 (コレハ……ルイズ……君ガ?) ホワイトスネイクは、彼にしては珍しく混乱していた。 時を止める。 その力は、彼の知る限り、両方共、消失しているはずであった。 一つは、彼自身の手で葬り、もう一つは、彼自身が取り込んだ。 なのに……何故? 赤髪の女を助け起こし、才能のDISCを返却する本体に目もくれずに、ホワイトスネイクは、ルイズが先程まで立っていた場所を調べる。 すると、そこには、一枚のDISCが落ちていた。 DISCの表面には、屈強な肉体を持つ右半身が砕けた人型が見て取れる。 DISCに封じられし、スタンド名は『世界』 ホワイトスネイクが吸収し、内に取り込んだはずのスタンドであった。 第四話 戻る 第六話
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2333.html
前ページ次ページDISCはゼロを駆り立てる ルイズはヴァリエール家の領地にある泉の畔で、泣きはらした真っ赤な目を擦りながら立っていた。 教科書の内容を全て覚えても、腕がちぎれるかと思うぐらい杖を振っても、喉が枯れるほど呪文を唱えても、成功の欠片すら見えない。 火も水も風も土も、どれもこれもダメだった。どんなルーンを叫んでも、大爆発という不躾な結果に終わってしまう。 明日は久しぶりにワルド様が"にんむ"から帰ってくるというのに、自分はまだ才能無しのゼロのままだ。 ちい姉さまのお部屋に行けばきっと慰めてくれるけど、こんなに頼ってばかりではダメだと思う。けれど、本当にどうしようもない。 ルイズはゼロのルイズが嫌いだった。自分を殺したいほど大嫌いだった。 「ふぁいあー・ぼーる!」 噛み破られて薄っすらと血が浮いた唇から、やや舌足らずなまでも発音は完璧に近い呪文が紡がれる。 だが少女が幼い胸を壊すほど願っても、血反吐を吐くような渇望の果てでも、結果は今までと同じ失敗だけだった。 間近で発生した爆発によりルイズは吹き飛ばされ、草の上を無様に転がる。小さな手の平から杖が飛んで行った。 「なんで……なんで、なんでよ……」 再び零れかけた涙を、目が潰れるぐらい強く目蓋を閉じて押し込めた。また小舟に戻るのは嫌だから。 やがて涙を湛えた瞳でルイズが見たものは、見るも無残な姿になった自分だった。ぼろを纏った姿はとても貴族には見えない。 特に杖を持っていた右腕は酷く、破けてしまった袖が縋りつくように残っている程度で、小石が跳ねたのか怪我までしていた。 ズキズキと鈍い痛みを発する二の腕を無意識的に摩る。 「なんでなのよっ!!!」 やり場の無い怒りは自らを焼き尽くすように燃え上がり、左手で傷跡を掻き毟るように痛めつけた。白い肌に無数の蚯蚓腫れが走る。 この世界が憎かった。才能の無い自分が嫌だった。魔法を使えるメイジが羨ましかった。 やがて自分を引き裂く痛みで我に返ったルイズは、数メイル先に転がっていた自分の杖を拾い上げ、呼吸を整え始めた。 体の隅々にまで酸素を行き渡らせ、未だ痛む右腕を意識の外に放り出す。脳裏に描いたのは当たり前の、でもルイズは持っていない物。 アンリエッタのような友達が、ちい姉さまの動物たちのような存在が欲しかった。何でもいいから力を願った。笑われない実力を渇望した。 「わが名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力をつかさどるペンタゴン。 われのうんめいにしたがいし、"つかいま"をしょうかんせよ」 再び耳をつんざくような爆発が起きたが、同時に大きな銀色の鏡がルイズの前に現れた。 現実を信じられぬままに茫然とそれを見つめ、ゲートから現れた大きな亜人をただただ凝視している。 不思議なマスクを被った、全身に横縞模様のある奇妙な人物だったが、初めて成功した魔法にルイズの心は高鳴っていた。 「こ、こんにちは! 私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 ……あ、あなたのお名前は? 亜人さん」 「……私ハ、ホワイトスネイク。"亜人"デハナク、スタンド、ダ」 この日この瞬間から、ルイズの物語はまったく別の方向に進み始める事となった。 眠りから覚めて薄く眼を開けたルイズは、見慣れた天蓋を確認して大きく体を伸ばした。久しぶりにあの時の事を夢に見た。 今日は使い魔召喚の儀式の日だから、恐らくはそのせいだろう。全身から力を抜いてベッドの上で寝返りをうち、大きく溜息を吐いて起き上がる。 すでに使い魔を持っている生徒は一日お休みだから、図書館にでも行ってみるのも良いかもしれない。 ホワイトスネイクを発現させて着替えを手伝ってもらながら、ルイズ自身は杖を振るって桶の中を水で満たした。 風のスクェアであるルイズには、この程度の芸当はまさに朝飯前だ。もっともあまり注目されたくないので、まだトライアングルで通している。 手際よく朝の支度を済ませ、最後に貴族の証であるマントを羽織って食堂へ向かう。廊下で擦れ違った生徒と軽く挨拶を交わした。 「あら、おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 ルイズがいつもの席に座ると、珍しくキュルケが先に来ていた。普段は後から来るか、ほぼ同時に部屋から出てくるのが常だが、やはり今日は特別のようだ。 失敗の不安は微塵もなさそうだが、一生物になりえる使い魔召喚の儀式には興奮するのだろう。火のトライアングルとして、下手な使い魔を呼び出す訳には行かないのだろうし。 もっともそれは殆どの生徒に言える事なようで、2年生のテーブルはすでに食堂の中は生徒たちで溢れていた。自分が呼び出すであろう使い魔の話で盛り上がっている。 「見てなさいよ? 絶対に、あなたより凄い使い魔を召喚して見せるんだから」 「ふふぅん。ま、一応は期待しておいてあげるわ」 ホワイトスネイクは一種の幻獣という扱いで通しており、ルイズの実力とも相成ってこのトリスティン魔法学校ではかなりの有名人だ。 ただし幻獣の癖に魔法が使えず拳しか能が無いこと、基本的にメイジの戦闘は遠距離での魔法の打ち合いという事実が重なり、評価は素晴らしく高いという訳ではない。 もっとも、隠している能力を知られた場合は、間違いなくハルキゲニア一の使い魔だろうが。 「言ってくれるじゃないの。それでこそ、私のライバルよ……。胸は私の圧勝だけど」 「……っ! 胸は関係ないでしょ、胸は!」 ニヤニヤしたキュルケの視線から胸を庇うために両手を組んで、顔を少し赤らめながらルイズは叫ぶ。 いずれはスクェアも近いとされているルイズにとって、唯一の弱点にして最大のコンプレックスは貧相なボディだった。 豊胸体操やらマラソンやらでそれなりに鍛えているのだが、まさに絶壁という感じで全く成長せず、こればかりは魔法でもどうにもならない。 その辺の男が迂闊にこのキーワードを口に出すと恐ろしい報復を覚悟せねばならないが、唯一キュルケだけは笑って言い合える仲だった。 部屋が隣り合った当初から何かと衝突するも、正面からぶつかり合っている内に悪友と言える間柄になっていたのだ。 やがて朝食の時間がくると、何人ものメイドたちが忙しなく駆け回り始める。二人はまだ言い合っていたためにやや遅れたが、あわてて両手を合わせた。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今日も我にささやかな糧を与えたもうたことを感謝いたします」 内容とは裏腹に贅を尽くした豪華な食事が所狭しと並べられており、祈りが終わると再び食堂にざわめきが戻る。 皮がパリパリに焼けている美味しそうなローストチキンにナイフを入れながら、ルイズはふと遠い日の記憶を思い起こした。 そう、あれはまだルイズがゼロだった頃、そして道を踏み外す前の話。 湖畔でホワイトスネイクの召喚に成功したルイズは大いに喜んだが、その驚くべき特性を知ると戦慄してしまった。 なぜか自分にまで伝わってきた焼き鏝を押し付けられたような熱さも忘れ、ただ息をのんで説明に聞き入る。 彼は才能や記憶をDISCという不思議な円盤に変えて抜き出し、さらには他者にそれを与えることができるのだという。 「そんな、誰かから、奪うだなんて……」 幼いルイズは自らが呼び出した"すたんど"という物に恐怖を覚えたが、心中ではそれを遥かに上回る狂気が荒れ狂っていた。 ずっと持たざる者であった彼女にとって、魔法の才能という誘惑はあまりにも大きい。身を焼かれながらも誘蛾灯に引き寄せられる昆虫のように。 それでも抑えていられたのは、一重にルイズが貴族であったからだ。10歳にも満たない少女は、その実誰よりも貴族たらんとしていた。 自分が魔法を使えるようになるのは素晴らしい。だが、この苦しみを誰かが代わりに味わうとなれば話は別だ。 「私ヲ使モ、使ワヌモ、君ノ自由ダ……。強制ハ、シナイ」 結局ルイズはどちらも決断できず、日が暮れるまで悩みぬいた後で屋敷へと戻った。 お母さまに叱られることを覚悟していたものの、ルイズの酷い格好と腕を自分の爪で引っ掻きまわした痕に気づいたのか、着替えと水メイジの居るカトレアの部屋に行くように言われただけに終わる。 初めての魔法が成功した事を伝える事はしなかった。ホワイトスネイクに情報はできるだけ隠すべきだと言われたからだ。 「どうしよう……。どうしたらいいの……?」 大好きなちい姉さまに恐れられるのが怖くて、ルイズは治療が終わった後ですぐに自室に戻り、身を縮込ませながらベッドでシーツをかぶっていた。 能力を使わないホワイトスネイクだって、接近戦闘なら並の使い魔よりよほど強いようだし、それだけで満足することも考える。 魔法は使いたい。でも誰かから奪うのは嫌だ。けれどもこれ以上馬鹿にされたまま生きていたくない。 どれほどそうしていたのか、いつの魔にか夕食の時間を逃していたようで、使用人の一人が部屋にサンドイッチをいくつか運んできた。 はっきり言って食欲は全く沸いてこなかったが、とりあえずお礼だけは言った。テーブルにおいてもらい、再び深慮の彼方に思考を飛ばす。 自分の魔法の才能をDISCにしてもらい、自分がまだ開花していないだけだという確認も取れた。やがてはルイズだって普通に魔法を使えるようにはなるはず。 「でも、それはいったい何時になるの……?」 すでに社交の場では、ルイズより幼い年齢の少年少女がコモン・マジックを成功させたという話がいくつも聞こえて来る。 上品に隠された口元からは暗にルイズを馬鹿にする内容ばかりが漏れ、それを聞くたびにドレスの裾を手が白くなるまで握り締めるしかなかった。 自分だってと思って、ひたすらに魔法の練習を重ね、服をボロボロにして叱られる。 教科書を完全に暗記して、それでも水泡に帰して涙を流す。 腕が上がらなくなるまで杖を振り、呪文をつむげば爆発で吹っ飛ばされる。 何時までこの出口の無い暗闇を歩けばいい? 何度、ヴァリエール家から放り出される悪夢を見ればいい? しかし、今のルイズには力があるのだ。もしスクェアの才能を奪い取れれば、きっとドットぐらいならすぐに使えるようになる。 ドットでも良い。大歓迎だ。せめてコモンマジックだけでも使えれば、そうすればもう誰も私を……。 「……のど、渇いちゃった」 あまりに重すぎる選択に、ルイズの頭と心は悲鳴をあげていた。熱をもった頭に腕を押し付けて冷やす。 年齢の割には膨大な知識を詰め込んでいるとはいえ、ルイズはまだ外を駆け回って遊んでいてもおかしくない子供なのだ。 熱に浮かされながらルイズは屋敷の中を進み、厨房で飲み物をもらうために歩き続けた。答えの無い二択が常に頭の中にある。 やがてやっと入り口まで辿りついたとき、中から声が聞こえた。 「……んとに、ルイズお嬢様は難儀だねえ」 「まったく。上のお二人はあんなにおできになるというのに」 平民である使用人たちがルイズをバカにしている。 聞いてはいけないと思うのに、体が硬直して動かなかった。 「奥様も、お辛いでしょうねえ……。カトレアお嬢様があんな体で……」 「魔法もよくおできで、心の優しい良いかたなのに、あんな風に生まれついて……」 「これで、ルイズお嬢様がもう少しちゃんとなさってたら、少しはねえ……」 違う。私は、貴族として……。だから、魔法を……。努力して……。 「ここまで違うと、もしかして、ルイズお嬢様は……」 「たしかに、それなら……」 「魔法の才能が無いのも……」 何だ。何を言っているんだ。私はヴァリエールだ。そんな訳が無い。才能だってあった。確かめた。まだ時がいるだけ。 ホワイトスネイクに頼らなくても、いつの日かきっと立派なメイジになって……。 「そういえばその頃、確かに旦那様の浮気疑惑があったと……」 「ええ! なら、本当に……」 「平民の……」 違う。 違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。 違う……よね? 誰か教えて! わたしは本当にヴァリエールなの? こんな才能無しで、本当にメイジなの? 私は、わたし、わた、し……。 ルイズの右手が蛇のように剥き出しの二の腕に喰らいつき、爪で皮膚を割って肉を引き裂いていた。 豪奢な絨毯の上に朱の雨が何粒も降り注ぐ。限界を超えた負荷に骨がきしみ筋肉が悲鳴を上げ、ルイズの手は真紅の川が流れているように染まった。 恐ろしい物を前にした時のように後ずさり、血を滴らせながら自分の部屋へと逃げ込んでいった。 おとうさま、おかあさま、わたしは、ほんとうに、きぞ、く……。 前ページ次ページDISCはゼロを駆り立てる
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1079.html
東の向こうから昇ってくる朝日が、夜の闇を鮮やかに消し去っていく。 まだ夜の名残を残す冷たい風の中を、追跡隊四人とフーケを乗せたシルフィードは気持ちよさそうに飛んでいる。 フーケは口の中に布切れを詰め込まれた上で猿轡を噛まされ、後ろに回された両手は波紋を流された彼女自身の髪で親指同士をガッチリ結ばれてた上でロープを巻かれている。足首も同じく波紋の髪とロープで拘束されているが、しばらくは意識を取り戻す気配すらない。 残りの四人も、夜を徹しての追跡行と先程までの戦闘が終わったという気の緩みで例外なく生欠伸を噛み殺しつつも、学院への帰還の途に着いていた。 「あ~~~~~……どうもあれじゃの、年寄りには徹夜が一番堪えるわい」 この戦いで大量の波紋を消費したジョセフは、襲い来る眠気に苛まれながら横にいるルイズとキュルケに目をやった。 今はジョセフを中心にして左にルイズ、右にキュルケという形で座っている。タバサは一人前に座ってシルフィードを操っている。三人と一人の中央にフーケを転がしているという状態だ。 「それにしても……ルイズの爆発があんなにすごいだなんてわかんなかったわ。それもダーリンのアシストがあったからだけど」 ルイズを誉めてるのかバカにしてるのか判らない様な物言いにも、ルイズはまだ夢でも見ているような表情でこくりと頷いた。 「あれ……本当に、私がやったのよね」 もう何度目になるかも判らない呟きに、ジョセフは苦笑しながら頭を撫でてやった。 「ああ、大丈夫じゃ。お前があのゴーレムをブッちめたんじゃぞ、ルイズよ」 あまりにも信じられない出来事に、まだ現実を現実と認識し切れていないようだった。 それもしょうがないと言えばしょうがないことではある。 常日頃から『ゼロ』だの『無能』だの言われ続けてきた彼女が、ジョセフやキュルケやタバサでさえ決定打を与えることの出来なかったフーケのゴーレムを撃破したのだ。 それは正確には系統魔法での破壊ではないし、学院の生徒達に言っても信じる者はいないと確信できるほど突飛な結果ではある。 だが、ルイズには十分すぎる結果だった。三人のアシストを受けたとは言え、失敗魔法とは言え、ハルキゲニアの貴族達を翻弄した土くれのフーケを捕らえることが出来た。彼女にとっては世界を揺るがすほどの大戦果である。 しかし。 ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは、それを素直に喜べるほど間抜けでも恥知らずでもない。喜びに浸る前に、どうしても心に引っ掛かる小さな棘を意識せずにはいられないのだ。 確かにフーケは捕まえられた。でも、あそこで。ジョセフとキュルケの邪魔をしていなければ、もっと簡単にフーケを捕まえられていたはず、という事実は、少女の胸を締め付ける。 ここでそんなことに触れないで、何事もなかったかのように喜びに浸ることは出来ない。 ルイズはしばらくの間、落ち着きなさげに三人の仲間達に視線をめぐらせてから、意を決しておずおずと口を開いた。 「その……ええと、あの……みんな……ごめんなさい。本当は、私が邪魔しなかったら、もっと簡単にフーケを捕まえられてたと思う……」 やっとの思いで呟いた謝罪の言葉の後、自分がどうにも足手まといだったのではないか、という思いがより深く少女の顔を伏せさせる。 「みんなが喜んでくれるのは、嬉しい……けど、でも……」 再びジョセフにキスされて舌入れられそうな言葉を言おうとしたルイズの言葉を遮ったのは、ジョセフではなかった。 「こーらルイズー? そういうのは言いっこなしだって言ったでしょ?」 ルイズの前にやってきたキュルケが、彼女の頭を抱き寄せて自分の胸に埋めさせたのだ。 「むー!? な、ちょ!」 大平原と高山の違いを見せひらかされたルイズのテンションは、すぐさま怒りに転じた。 だがキュルケは、普段のようにルイズをからかう口調ではなく。まるで子供に優しい言葉を掛ける母のように、微笑を浮かべながら言葉を紡いでいく。 「私は気にしてないし、ダーリンやタバサだって気にしてないわよ。結果的に言えば、あたしとジョセフだけで捕まえるよりも、ルイズが……ううん、みんなであのゴーレムをやっつけた方がきっと一番よかったと思ってるわ。 確かに大変だったけど、得た物だって沢山あったじゃない? ほら例えばルイズとダーリンの見ててこっぱずかしい愛の告白とかすっごいベーゼとか」 下から飛んできたアッパーを、キュルケは余裕のスウェーバックで避けた。 「あっ……あんた……!」 先程までのしおらしい空気は何処へやら、普段通りの睨みつける表情…ただし顔の赤みは特注品で、キュルケに怒りを向けた。 しかしキュルケはなおも楽しげに笑うと、ルイズを再び褐色の谷間に埋めた。 「終わりよければ全てよしって言うじゃない? あんたとダーリンの信頼関係も築けたし、私達の間だって十分すぎるほど築けたわ。他の誰かさんが今夜の出来事を全部信じるとは思えないけれど、私達はそれを目の当たりにして、フーケを捕らえたのよ。 私達の間じゃ、あんたは『ゼロ』のルイズじゃなくなったってコト。それはきっと何物にも得難い宝物なんじゃないかしら。そうは思わない?」 よしよし、と子供をあやすようにルイズの桃色の髪を指で梳くキュルケ。 ルイズはなおもじたばたしていたが、横目で見ていたジョセフは(うっわわしも埋められてぇー)と思うと同時に、えらく堂に入った慰め方じゃのうと感心もしていた。 ただ単に男好きな少女なだけではないのと、ルイズを優しく見守っているその姿勢。ジョセフの中でキュルケの評価が大幅に上方修正されていた。 「それに」 不意にタバサが後ろを振り向き、口を開く。 何事かと思わず注目する三組の視線にも頓着せず、彼女は淡々と言葉を続ける。 「それを言うなら私達も貴方達に謝罪しなければならないことがある」 頭にクエスチョンマークを浮かべる三人に、ぽそりと呟いた。 「実は武器屋でハーミットパープルを使うのを覗き見したのを黙っていた。ごめんなさい」 事実だけを述べて深々と頭を下げたタバサを見て大慌てするキュルケ。 「え、ちょ、タバサ!?」 鳩が豆鉄砲食らった顔をしているルイズとジョセフを交互に見た後、キュルケも意を決して勢い良く頭を下げた。 「えっと、あの、ごめんっ! 実はルイズとダーリンがどこかに出かけるのを見つけたから、タバサに頼んで尾行してたんだけど……あの、タバサは悪くないの! 私が嫌がるタバサを無理矢理連れてってたから、タバサは巻き込まれたというか不可抗力と言うか……!」 二人の言葉に「OH MY GOD」と心の声が聞こえるくらい天を仰いだジョセフ。 (おいおいおいおい、それはねえと言うか何と言うか! 読心能力まで見られてたとか! まあ親父脅したのはともかくとして……なんかわしが二人を信用しきってないから読心使わなかったとか思われてたりせんじゃろな!?) 今の段階では、赤の他人の心を読むには本人自身か、極めて本人に近い物体を媒介として用意しなければならない。フーケの残した土くれでは念写は出来るが読心は出来ないため、特に使わなかったのだが。 ジョセフは皺の寄り切った眉間に当てていた指を離すと、大きく頷いた。 そして右手からハーミットパープルを伸ばすと、自分の喉に緩く絡みつかせてから、三人の耳元に茨の先端を這わせ、押し付けた。さっきも使った骨伝導である。 もしかしたらフーケに聞かれるかもしれない、という用心の為でもあるが、より「内緒話」感を強くするのも念頭に入れている。 「よし! もうハーミットパープルについちゃわしらだけの秘密にしよう! 今ハーミットパープルを知ってるのはわしらとオスマン学院長くらいじゃしな! で! 読心能力はこの身内には決して使わない! 自分の心の中を覗かれて平気でいられる人間はおらんしの! プライバシーの侵害になっちまうからのッ!」 心の中に隠していることを全て知られる、というのは随分と恐ろしい事である。三人は想像の範囲内ながらも、もし自分の心が人に知れたら……と考えて、その恐ろしさに身の毛がよだった。 こくこくこく、と一も二もなく頷く三人。 「どーやらスタンドどころか波紋もあまり見せちゃいかんようだったが、もう波紋であれやこれややっちまったからそれはしゃーないッ。ただハーミットパープルのことは他言無用っつーことでな。オーケー?」 全員でこくりと頷いた。 「よし。んじゃそーゆーことでヒトツ。ルイズもキュルケもタバサもそれぞれきちんとゴメンナサイしたことじゃし、これで水に流しちまおう。なッ?」 これで一件落着……となるはずだった。が。 「うふふふふ……それで終わりだとか思ってるワケじゃないわーよーねー、ジョーセーフ?」 まだ終わっていない人がいた。 我らが『ゼロ』のルイズである。 「フラチにもご、ご主人様にッ……あああ、あんな、きききキス、するだなんてッ……!」 乙女にとってキスとは神聖不可侵な問題である。 ファーストキスはまだしょうがないとしよう。しょうがないのだ。 だが、あのキスは。セカンドキスを奪われた上に。 「しっ……ししし、舌まで入れるだなんてッ……!!」 ゴゴゴゴゴ、と特徴的な書き文字をバックに肩を震わせるルイズ。 ジョセフの卓越した危機感知能力は、命の危険を判別したッ! 「……ま、待てルイズッ! ここはヤバいッ! 落ちたら死ぬからッ! な! 落ち着けッ! むしろ落ち着いて下さいッ!」 全身全霊で命乞いをするジョセフに、ルイズはゆらりと杖を振り上げた。 (何が一番許せないって――!!) キュルケも死ぬ気でルイズを羽交い絞めにするも、ルイズの詠唱は止まらない! (ちょっと気持ちよかったのが、一番ムカついたッッッ!!!) 「ハ、ハーミットパープルッ!!!」 「帰ってから! 帰ってからになさい! ね!?」 「ムゴゴッ! ムゴ、ムゴーーーッッ!!!(離しなさいよ! 離しなさいってば!!!)」 後ろで巻き起こる大騒ぎから、前に視線を戻したタバサの唇には。 小さいけれど、確かな微笑みが浮かんでいた。 To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2032.html
さて、日の出前の一見平穏そうな学院を眺める二つの視線。 当然、元暗殺者とそれに半分脅されている現役盗賊である。 一見静かそうに見えるが、よく見ると死体が転がっていたりもする。 遠目だが、あの装備は銃士隊の物だ。 つーまーり、隊長であるアニエスが居る可能性が高い。 まぁ、居たからっつっても特に関係無いのだが。 戦争がおっ始まったこの時期になれば、後はどんだけ早くアルビオンに向かいクロムウェルを始末するかなので 見知った顔にバレても特に問題ないのである。 問題は、どうするかだ。 どうするにしろ、いきなり広域老化ブチ込んで学院側に余計な死者が出たら交渉にもならんだろうというぐらいは分かる。 関係なけりゃあ纏めて老化させるとこだが。 少なくとも、まずは探りを入れ接触する必要があるのだが、そういう事に向く能力ではない。 そういうわけで、横のフーケに話を振る。 「よぉ…オメー、ゴーレムとか出せよ」 「あんなバカデカイもん出したら一発でバレるよ」 「じゃあ派手に魔法ブッ放せ」 「わたし一人であれだけの人数相手にできるはずないじゃないか。あんたがやりな」 「ちッ…使えねーな」 プッツン ―き…切れた…わたしの中の決定的な何かが…! 必要最小限のモーションで杖を取り出しゴーレムを瞬時に練成ッ! 「あんたが無理矢理手伝えって言ってるから付き合ってるんだ…」 背後に練成させたゴーレムの親指を目の中に突っ込んで殴りぬけるッ! 「それを、よくも!このクソがッ!このフーケ様を『使えない』などと抜かしたなァああっ----ッ!」 今のフーケに美貌というものは一切存在しないッ!今のこいつの心はドス黒い真っ黒な闇のクレパスだッ! 「この…ド畜生がァーーーーーーーーーーーーーッ!!」 その叫びと共にゴーレムがプロシュートに無数の蹴りを放つッ! 「ゴーレムで踏み潰すのは一瞬だッ!それではわたしの怒りがおさまらんッ!」 鉄のゴーレムがッ!プロシュートの全身を満遍なく蹴り付けるッ! 「お前が悪いんだ!お前がッ!わたしを怒らせたのはお前だッ!お前が悪いんだ!」 その形相たるや鬼か悪魔か、まさにオーガの如し。 今ならば奇声をあげながら飛び蹴りを放っても全く違和感がございません。 フーケ改め、サウスゴータ海王お得意のゴーレム練成による渾身の打岩にございます。 「思い知れッ!どうだッ!思い知れッ!どうだッ!どうだッ!」 黒曜石も砕けよといわんばかりの音がその場に流れ続けていた。 遂に、本体であるサウスゴータ海王も蹴り始めました。 もう誰も止めようがないのであります。 一頻り蹴り終えると、大きく息を吸い込み虚空に向け思いっきりシャウト。 それと共に、WRYYYYYYYY!という叫びが最も似合うサウスゴータ海王渾身のポージングにございます。 「勝った!ゼロの兄貴完!!」 ………………ってやれたらいいのになぁ。 軽く現実から逃避していたが、どんなに辛くても現実から目を背けていられないので戻ってきた。 一人なら酒瓶に塗れて、酒と目から流れ出る水分の混合物に長い髪を濡らしている所である。 魔法を使うには呪文が必要であり、唱える際に時間が掛かる。 コモンマジックならともかく、ゴーレムなんぞを作るとなると、それなりの呪文が必要だ。 対してスタンドは即時発動可能である。 装填済みの銃相手に未装填の大砲で相手にするようなもので、この場合分が非常に悪い。 おまけに、相手の銃の射程はとんでもなく長い上に効果も最悪ときたもんだ。 こいつとエンカウントしてから、妙な幻覚に悩まされるのも頭が痛くなる種の一つだ。 妙なフード被った、目の色が妙な男と何か良い感じになっている自分という幻覚を何回か見た。 そんな幻覚を見た事自体がアレでナニでシャウトしたい気分にさせてくれたが、現実はかーなーりーシビアである。 ああ、それにしても、こいつに捕まえられてから不幸続きだ。脱獄させて貰ったとはいえワルドに脅され、そしてこいつに脅される。 ひょっとして、わたしの人生これから常に誰かに脅され続けられるのか。それなんてイジメ? いくら貴族から盗みをしてきたとはいえ、あんまりじゃないですか始祖ブリミル。誰でもいいから誰かたーすーけーてー。 ぶっちゃけまだ現実世界に戻りきれていない。逃げれるものなら逃げているのだが、逃げれない。 「ま…オメーを頼りにしてんだからよ。何考えてるのか知らないがしっかり頼むぜ」 そんな思いをよそに横からかかる兄貴のお声。 「嬉しくて涙が出るよ」 本当に涙が出そうだ。 左手で肩を掴んで右手で木の幹を触って、木だけを恐ろしい程の速度で枯らしてさえいなければ。 言葉で言わなくても分かる。 目がマジだ。 明らかに裏切ったら、『なにがあろうと、例えどんな障害があろうと必ず排除してオメーをババァにする』 そう言っている目だ。 不言実行。そう思った時、スデに行動は終わっているッ!って感じの! アルビオン軍全てを敵に回しても、こいつはヤる。 直感だがそう感じた。 ボスを斃すという目的のためにパッショーネを離反したという暗殺チームの意地の片鱗を確かに感じ取っているッ! なるべく目を合わさないように空を見上げると、懐かしい顔が笑顔で手を振っている姿を幻視した。 思わず目から冷たいものが流れ出る。 ―畜生、汗が冷たいや。…………泣いてなんかいないやい。泣いてたまるか、絶対に泣くもんか。 もう一人の自分にそう言い聞かせるが、精神的に大分参っている。 今、DISCがINすれば、確実にハイウェウイ・トゥ・ヘルが発現するだろう。 ぶっちゃけこいつ連れて行きたくないが、生きてアルビオンに着いたら一度孤児院に戻ろう。 戻ってあの笑顔で癒されよう。そう堅く決意する。 「なに呆けてやがる」 「…なんでもないよ」 またしても現実に引き戻されたが、ここで死ぬわけにもいかないし、老化して孤児院を養老院にするつもりもない。 なんというか、後者の方が嫌だ。 あの子達からフーケおばあちゃんなどと言われる所を想像したら寒気がした。 おばちゃんを通り越して一気におばあちゃんというのはキツイ。いやまぁ、おばちゃんも嫌だけど。 つまり、前進するしか無いわけだ。後退すれば最悪な結果が待っている。 後退するより前に出た方が良い結果が出るという、ある特定世界の法則もある。 しかしながら、死者を蘇えさせる事のできる虚無の使い手(とフーケは思っている)と もんのスゴイ勢いで老化させる訳の分からん能力を持つプロシュートのどちらを相手にした方がマシかとまだ大分悩んではいるのだが。 虚無と言えば、伝説のアレであり、えげつない魔法を使うので相手にしたくないのだが グレイトフル・デッドもアレな能力なので相手にしたくない。 ぶっちゃけストレスで胃が痛い。よくこんなのを使い魔にできたなとルイズの事を思わんでもない。 (火薬樽の近くで火遊びするようなもんだよ、まったく…) 使い方次第では強力な武器になるが、一歩間違えば自爆する。 暗殺チームとしては抱く感想としては間違った感想ではない。 「そういや、クロムウェルの系統は何だ?」 唐突にそう訊かれたフーケだが、思わずコケそうになった。 こいつ知らないで暗殺しようとしてたんかい!と突っ込みそうになったが、ギリギリ耐える。だってまだ老化したくない。 「虚無だよ、虚無。わたしの前で死人を生き返らせたんだ」 「?ありゃあアンドバリだったか、その指輪の効果じゃねーのか?」 「わたしには分からないよ。本人は虚無は生命を操る系統だった言ってるけど」 顔に手を当てて少し考えたが、答えはすぐに出た。 「成程…大したタマだな」 「どういう事さ」 フーケは訝しそうにしていたが、実際に虚無を見ている側としては違う事が分かる。 まだあるだろうが、確認した『エクスプロージョン』と『ディスペル』は生命を操る魔法ではない。 中にはそういうのもあるかもしれないが、それだけで『生命を操る系統』などとは言いはしない。 「ま…死人生き返らせたってのは指輪で間違いないだろ。…オレの直を食らっても動こうとしてたヤツなんざ死人以外の何モンでもねー」 ただ、虚無ではないにしろ、指輪の効果がまだ他にあるかもしれないので迂闊には接近できない。 死人といえど自在に操っていたからには、洗脳という効果も考慮に入れておいた方がいいと判断した。 「要は国を巻き込んだペテンだ。皇帝より盗賊のが向いてんぜ。そいつはよ」 「ふーん、そうか…そういう事か」 フーケ自身、レコンキスタに特に興味が無かったし、誰が皇帝になろうが知ったこっちゃあないが ただ一つ、守る物がある。 死人を生き返らせた事から、クロムウェルにビビッっていたが、それが虚無ではないと知ると途端にムカついてきた。 別段、騙されたからという事ではない。 クロムウェル自身が言っていた事だが『忌まわしきエルフから聖地を取り戻す』などとほざいていたのである。 そうなると万が一だが、あの娘の身が危ない。 あの人一倍世間知らずで、自分が唯一守るべき者が。 平時ならともかく、戦争となればあの場所に敗残兵などが雪崩れ込む可能性すらあるのだ。 トリステインであれ、アルビオンであれ、軍となればどちらであろうとそれは拙い。 なら、このエルフなんぞどうでもよさそうで、ある意味『全ての生命を終わらせる』という クロムウェルに相反する力を持つこの男に乗ってみるのも悪くない。 「気が変わった。しばらくだけど、あんたに付き合わせてもらうよ。ただし、わたしと、その周りに危害を加えない事。これが条件」 「ふん。まぁいいだろ。頼んだぜフーケよ」 前と同じ『頼む』という言葉だが、意味は異なる。 さっきのは、グレイトフル・デッドで半分脅しながらだったが、今回は違う。 マジに、言葉のままだ。 何故に変わったかというと、フーケが変わったからである。 グレイトフル・デッドで脅していただけあって、それで従っているような感じだったが、今は違う。 こちらに条件を要求してくるあたり、フーケ自身がそう自分で判断した結果だ。 無論、完全に信用したわけではないが、無理矢理従わせた10人より、自分自身でそう行動すると決めた一人の方が余程信用するに足りるのである。 なにより、余計な気やスタンドパワーを回さずに済むので楽で良い。 「それじゃあ行くか。マンモーニどもはついでだがな」 「…メンヌヴィルは任せたからね」 フーケとプロシュートが二手に別れる。 まだフーケが、こちらに付いたという事は知られていないので単独行動させた方がいいと判断しての事だ。 フーケは、手筈どうりなら人質が集められているであろう食堂に。 プロシュートはしばらく状況を探るために人の居なさそうな場所へと身を隠すために。 互いに身の心配などはしていない。その辺りは両者ともプロである。 混乱の学院にグレイトフル・デッドという『悪魔』を従える暗殺者が舞い戻った。 プロシュート兄貴―マジに殺る気の兄貴がヤバイ『学院』にINッ! はぐれ犯罪者コンビ―改めて結成 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1466.html
「宇宙の果てのどこかにいるわたしのしもべよ。 神聖で美しく、強力な使い魔よ。わたしは心より求め、訴えるわ…… 我が導きに、答えなさい!」 ルイズは呪文を詠唱すると、祈る思いで杖を振りかざした。 途端に爆発が起こり、同級生達が叫び声を上げる。 音にはもう慣れた。ルイズは目を細め、唇をかみ締めながら爆発地点を見つめる。 夕焼けと爆発の煙にぼやけ、うっすらと何かの影が見えた。 「うそだろ、ゼロが」「何かの間違いだ!」「やっと帰れる!寝れる!」 好き勝手に騒ぐギャラリーの言葉もルイズの耳には入らない。 何十回もの失敗のすえの成功。嬉しさに顔がにやける。 危険は二の次、と影に歩み寄った。失敗しすぎて日が暮れかけている。 早く契約したかったし、何より間近で姿を見たかったのだ。 強風が吹いて、煙を一気に吹き消した。ルイズの心臓が一際強く跳ねる。 ゆっくりと立ち上がったその姿は、人間の男に似ていた。 体つきは人間そのもの。圧倒的な存在感を放つ高い背丈と逞しい体躯。 頭から十本ほど、細いものが角のように突き出ている。 不思議な装束を纏っている。薄い布地が身体に貼りつき、ずいぶん窮屈そうだ。 ルイズ達は息を呑んだ。 一瞬、その身体が夕焼けの光とも異なる奇妙な輝きを纏っているように見えたからだ。 ルイズの背後から「亜人……?」と呟く声が聞こえた。 ルイズの目線が亜人?の顔へと移り、そこで凍りついた。 亜人?と最も近い位置にいるのがルイズである。距離はほぼ3メイル。 ルイズ以外は遠巻きになっている為、15メイルは離れている。 だから最初に気づいたのは当然ながらルイズだった。 亜人。亜人、よね?そうよねうんそうだわ。だってこんなに変なんだもの。 眉なんか妙に黒くて太くって、目の周りなんて濃い紫色。頬もこてこての紅色で、 分厚い唇は硬そうなのに真っ赤。どう見ても普通じゃない。 でも、でも目つきや肌の色も人間っぽい。着てる物もよく見ればワンピース? 角みたいなのはただの頭飾り? い、いやいや待っておかしいわ。そんな事あるはずない。 だって「これ」が人間だとしたら180サント以上の筋肉男よ?化粧してたり スカートはいてたらへ、へへへ変態じゃない。だからこれは亜人。どっか遠くの 部族の民族衣装かなにかよ。どんなに人間に似てても、にに人間なわけないのよ。 亜人は寝ぼけたような目できょろきょろしている。爆発のショックだろうか。 そのまま何故か足元に転がっているガラスビン数本をぼんやりと眺めていたが、 ルイズを見るやそのうちの一本を拾って差し出す。そして何事か呟いた。 「あらお客さま?あたしのドリンクいかが~~?お嬢ちゃんにはまだお酒は 早いから、冷たァいコーラでもどうかしら~~~~」 うわ言のように続けられるそれはどう聞いても人間の言葉だった。 ドッギャァアアアアン ヴァリエール公爵家三女ルイズ・フランソワーズ・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの 使い魔はなんと人間で平民!しかも筋肉達磨の女装男に決定ッ!! ルイズは耳を澄ました事を後悔し、立ち尽くした。 会話を交わしたかと思いきや、硬直して動かないルイズと亜人?の様子に生徒達が 不審を感じざわめき出す。 「もしかしてあれはただの人間なのでは?」と誰かが口にすると、すぐにからかいの 声も出始めた。だが、少数いた目端のきく者の「あれって女装した男じゃ」という声は 途中でどこかから放たれた炎によって遮られた。 (召喚したのが人間だった位なら笑いのネタにできるけど、“あれ”をからかったら ルイズはもう立ち直れない。なんとなくそんな気がする) 普段ルイズのライバルを自称しているキュルケははらはらしながら杖を握りしめた。 ルイズの肩は震えていた。 やっと現れた使い魔である。贅沢は言わない、はずだった。 鼠や蛙でも文句はないし、いっそ虫でもいいやぐらいの覚悟は出来ていた。数分前までは。 (ミミミミスタ・コルベールやりなおしのきょかを) 自分の喉が乾ききってヒューヒューという音しか出していないと気づかないまま ルイズが背後を窺うと、コルベールは首をかしげながら眼鏡を拭いている最中で まだ何も口にする様子はなさそうだった。 ルイズの瞳が潤み、目尻に涙が溜まる。 ……ミスタ・コルベールはどうせ再召喚を認めてくれないだろう。 きっと「神聖な儀式だから」とか言って、取り付く島もないに決まってるわ。 絶望に心が埋め尽くされ、浮かんだ涙の一粒がこぼれそうになったところに、 ルイズの頭の中でチリペッパーをブチ込まれたような電撃が閃いた。 ――なに、「再召喚を認めてくれないかも」ですって? 逆に考えるのよルイズ。 はっきり『認めない』と言われる前にこの女装男を消しちゃって、まるで 最初から何もいなかったかのように『またまた失敗しちゃいましたァァアン』と ごまかせば万事解決――と考えるのよ。 だから急いでジョースター家の恥さらしであるそのマヌケを爆死させるんだルイズ。 ってあれ?なんか途中から誰かが割り込んできたような感じだったけど…… 「なかったことにする」。なんて盲点。この説得力、天の声と呼ぶべきね。 コントラクト・サーヴァントをするふりして爆破。 微妙に悔しいけど「いつもの失敗」って事ならコッパゲも信じるはず! 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン……この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 一気に言い切ると、ルイズは男に近づこうと一歩更に足を踏み出す。 (そう、あと少し。あと少し近づいたら至近距離で『レビテーション』を 食らわせてやるわ。勿論コッパゲ達に聴こえない超小声でッ!!) ルイズは男と数サントの距離まで顔を寄せた。袖に潜ませた杖を男に向ける。 そのまま詠唱を始めようとしたルイズの唇は、 「むぐっ」というくもった音を残して――男の唇に奪われていた。 ルイズの失敗は「近づく前にしっかり男の様子を確認しなかった」に尽きる。 元々涙が滲んで視界がぼやけていた上に、ルイズは男を直視するのをためらい 無意識に視線を逸らしていたのであった。 だから、異変を感じた男が最初の発言以後沈黙し、現状把握に努めていたこと に気づけなかったし、男の瞳が自らに近づいてくるルイズを観察していること にも考えが及ばなかったのである。 「むむっ?ふ、むむ……」 『唇を塞がれていたら詠唱が出来ない』。ルイズが最初に思ったのはそんな事 だった。次第に気づいて抵抗し始めるが、男の手に両肩を押さえられており 身じろぎ程度にしかならない。 誰も止める者はいない。傍目からは何も問題のない契約の儀式だった。 ルイズは男の唇を噛んでやろうと思った。だが顎が動かない。 身体に流れ込む暖かさが安心感を呼び、抵抗していた手足の動きすら止めている。 その暖かさは、男の手と唇から流れ込んできていた。 男が右手をルイズの頬に添え、彼女の涙をそっと拭った。 契約中の二人を、キュルケが呆然と見つめていた。 (まさか、ルイズが素直にキスするなんて……絶対ゴネると思ってたわ。 ああルイズったらあんなに気持ち良さそうに!エロ光線か何かかしら。 ちょっと代わってほしいかも。この際見た目が不気味とか気にしないから。 あああルイズ目がとろんとしてる!羨ましいのよッ代わりなさいルイズ。 早く代われ私と代われェェエエエッ!!) 血走った目で赤い髪を逆立てていたキュルケの足をとんとん、と誰かがつつく。 キュルケの右隣に座って本を読んでいた親友、タバサである。 「ど、どうしたの?タバサ(今いい所なんだけど)」 「よだれ」 一言で返答すると、タバサは本の頁に目を向けたままキュルケにハンカチを差し出した。 二人の口付けは、ルーンによって男が左手に痛みを感じ始める数秒後まで続いた。 例え目の前に広がるのが見知らぬ土地であろうとも、例え相手から殺気を感じたと しても、美少女とは一応キスをしておく――後でナチスの基地の場所と、ついでに この娘がレズビアンなのかも尋ねてみよう。 召喚された男、ジョセフ・ジョースターの思考は現在、だいたいこんなものだった。 彼は自分の女装に絶対の自信を持っていた。 ジョセフには女装の才能の代わりに運を引き寄せる才能があった。 しかしこのキスが彼にとっての幸運になるかどうかは、まだ誰も知らないことである。 つづかない。
https://w.atwiki.jp/dod3kousatsu/pages/24.html
何故セントが居るのか 結局この分岐何がしたかったの なんで森の様子がおかしいの? トウはどうやってウタヒメ達を殺したの? 契約の儀式はどこから出てきたんだ なんで契約したらミハイルの目に花が移ったの? 最後ゼロはどうなったの? ミハイルは自分に咲いた花を食べたくならないの? 何故セントが居るのか 「ぶっちゃけ『分岐』とは名ばかりで、Bルートは『Aルートの途中から派生したルート』ではないから」説が有力か。要するに、Bルートは「もっと前からセントが加入していた場合の時間軸の話」であり、Aルートの有り得ないタイミングでいきなりセントが加入したわけではない。 ただその場合もやっぱりどういう経緯でセントが加入したのかは不明。 これ、やはり製作側の何かしらの意図があるに違いないです。 -- 名無しさん (2020-02-08 17 58 41) 名前 コメント 結局この分岐何がしたかったの ワンほどではないがなんとなくゼロの真意を察しているスリィがウタウタイを殺害しようと計画。 ワンはスリィの意図に気付きつつも、逆にそれを利用してウタウタイを殺害しようと画策。森へ。 とりあえずトウ、ワン、ゼロが全員森に入ってきた所までは良かったが、計画の途中でトウが暴走。 ワンとワン君がトウに負け死亡、スリィも致命傷を負いゼロの元へ辿り付いた所で死亡。 さらにウタヒメの魔力の影響でセントが裏切り、ゼロのパーティもガタガタに。 なんとかトウとセントを倒すが、トウの呼び出した天使ラファエルの毒でミハイルも瀕死に。 「契約」を行って無理矢理一命を取り留めさせるが、花は残ってしまった。 恐らくそんな感じのバッドエンド。 名前 コメント なんで森の様子がおかしいの? スリイによると「ワン姉さんが秘密を握っている」らしいが不詳。セントの適当発言が珍しく当たってて妖精が居ないから森の様子がおかしいのか。それとも逆に森がおかしいから妖精が居ないのか。 ストーリーサイドによると神の仕業がほのめかされている -- 名無しさん (2015-01-28 21 06 05) 名前 コメント トウはどうやってウタヒメ達を殺したの? ゼロに対抗するためにそれぞれドラゴン製の武器を持っていてもおかしくないと思われる。あのワンに刺さってた槍が誰の武器なのかは不詳。トウの紋章には槍っぽい武器がデザインされてるし、トウの物か? 名前 コメント 契約の儀式はどこから出てきたんだ ゼロが「花の力を持って~」とか言ってるし、花の力を利用して異世界から契約のシステムを引っ張って来たのかも。 名前 コメント なんで契約したらミハイルの目に花が移ったの? 「契約の儀式」=「心臓の交換」であり、花の力で動いている死体であるゼロにとっての心臓部は花だからだと思われる。 もしくは「他者と能力や精神、生命を共有する儀式」である「契約の儀式」を行った事によって、ゼロの能力である『花』がミハイルにも咲いたのかも? それともDOD3の時代は「契約の儀式」は「花を咲かせる儀式」だったのかも?そのへんはこっちも参照。 名前 コメント 最後ゼロはどうなったの? ゼロの発言が舌足らずになっている&ミハイルが下見て「あっ」みたいな事言ってたから、小さな子供に戻ったのだと思われる。なんでそうなったのかとかはこのへん ミハイルと契約した事によってゼロがミハイルの年齢になったとか。 -- 名無しさん (2014-07-14 00 40 05) 名前 コメント ミハイルは自分に咲いた花を食べたくならないの? なるかも? 契約の力によってゼロを捕食するとミハイルも死ぬらしい。なのでもしかしたらBは後に花の力が消滅する分岐になるかもしれない。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1391.html
「きゅい!そうなの、あの使い魔が死にそうなギーシュ様を治したのね!」 「そう…」 育郎とギーシュの決闘があったその日、魔法学園の上空でタバサが自分の使い魔の竜、 周りには風竜と説明してあるが、実は伝説とまで言われる、人の言葉や先住魔法まで操る風韻竜と呼ばれる種族のシルフィードに、決闘の顛末を聞いていた。 キュルケからほとんど同じ内容の話を聞いていたが、それでも彼女にとって、 最も重要な事が確認できたので無駄にはならなかった。 だがまだまだ確認すべきことはある。簡単に喜ぶわけにはいかない。 「先住魔法?」 「うーん、ちがうと思うの。精霊の力は感じられなかったの」 先住魔法とも違う力…彼女の瞳に小さな希望が宿る。それは彼女のもっとも大切な人間、先住魔法の薬で、心を狂わされてしまった母を治す可能性。 だが簡単に喜ぶわけにはいかない。相手が自分の頼みを簡単に了承するとは限らない。 そもそもその相手は… 「あの使い魔…なにかわかる?」 相手は知識を求める事に余念が無い、自分ですら知らない亜人なのだ。 たぶん亜人なのだ。 知らないけど亜人に違いない。 とにかく、もしかしたら自分の使い魔なら、ひょっとしてあれが何か、知っているかも知れないと期待して聞いてみる。 「知らない、見たことも聞いた事もないのね!」 使い魔の答えに心を重くするタバサ。 「きゅいきゅい!お姉さま、わたし思うの!あれはきっと悪魔なのね!」 その言葉にタバサの体が一瞬ビクリと震えるが、シルフィードは気付かずに続ける。 「ギーシュ様を治したのもきっと油断させる為なの! ミス・ヴァリエールの使い魔をやってるのもたぶんそうなのね! そしてある日、キレイな女の人の魂を食べちゃうの!恐い! そうだ!カワイイからきっとお姉さまも狙われるわ! お姉さまが食べられちゃう!きゅいきゅい!」 ぺしぺしぺし 「きゅい!イタイ!どうして叩くのお姉さま!?」 そんな恐ろしいことを言うからだ。 次の日、彼女は授業を休んで密かに図書館に向かった。 先日の夕食時、あの使い魔は東方の亜人であると、学院長の秘書が言っていたという話を聞いた彼女は、確認のため東方に関する書物を調べに来たのだ。 一応病気という事になっている彼女は、ありったけの書物を借りていく。 中には教師にしか閲覧が許されない、フェニアのライブラリーに収められた書物まで含まれていた。 もちろん、無断である。 「ない…」 自分部屋の中で、大量の本に囲まれたタバサが一人つぶやく。2日徹夜してまで書物を読みふけったが、ルイズの使い魔に該当するような亜人の記述は無かったのだ。 「………」 チラリと部屋の片隅に追いやった2冊の本を見る。 それは念のため、ありえないと思うが、可能性はゼロに限りなく近いが、それでも一応図書館から持ってきた本であった。 シーゲル・ミズキ著『ヨーカイ大図鑑』 カズ・マ・カネコゥ著『万魔殿』 どちらも悪魔や妖精等、伝説とされる存在について詳しく図説された書物である。 意を決して、2冊の本を手に取る。 無論、悪魔や幽霊なんて存在するわけは無いのだが、存在するはずが無いのだが、頼むから存在して欲しく無いのだが、 それでも中には元となる話、生き物等がある可能性があり、 自分が求めるあの使い魔についての、何らかの情報が存在しているかもしれない、そう考えて図書館から持ってきたのであった。 決してあの使い魔が悪魔だなんて思ってないのである。 思ってないんだってば。 例え悪魔であろうとも、自分の母親を救う為ならば、魂の一つや二つドーンと捧げるぐらいの覚悟はある。 まあ、あの使い魔が悪魔なんて、そんな非常識な事があるわけないので、そんな覚悟をする必要は無いのだが。 オバケなんていないのである、オバケなんてウソなのである、寝ぼけた人が見間違えただけなのである。 だけどちょっと、だけどちょっと… 「…………!」 フルフルと首を振って、危険な方向に向かった自分の思考を打ち消し、気を取り直して、 彼女は本を開いた。 ベシッ! テッテッテッテッ フルフルフルフル 「あった…!」 何度か恐ろしい項を見る度に、本をその場に叩きつけ、部屋の隅で震えることを 繰り返した後、タバサはあの使い魔に当てはまる記述を見かけた。 『青白い者』 異教の終末の予言にはこう記されている。 「見よ、青白い者が出てきた。その者の名は『死』と言い、それに黄泉が従っていた」 その力は凄まじく、雷を呼び、手で触れるだけで人々を消滅させたと言われている。 また呼び出した者の願いを叶えるとも伝えられ、その際望むものと同じ価値の宝や魂を要求するという。 なお、彼が願いをかなえるのは、その人間の生涯一度だけである。 「…そんな!?」 思わず声をあげてしまう。彼女の脳裏には、先日食堂でハシバミ草とローストチキンを交換した光景が浮かんでいた。 なんという事だろう…自分の軽はずみな行動で母を救う望みが… なんのかんのいって、結局育郎を悪魔と信じているタバサであった。 族長(タバサ)! 族長(タバサ)! 族長(タバサ)! 族長(タバサ)! 『 知 は 生 命 な り ! 』 タバサの脳内で、そんな愉快な光景が広がっていてもおかしくない様子で、彼女が一冊の本を高々と掲げ上げる。 本にはこう書かれていた。 『実践!ブリミル式悪魔祓い』 見れば周りにも様々なおまじないや、民間信仰の本が積みあげられている。 この時点で徹夜4日目であった。 To be continued…… 18< 戻る
https://w.atwiki.jp/4869000/pages/12.html
工房なゼロ君。 チャット 基本は携帯から。 まれにPCから来る 流星のロックマン 戦法はボルテ特化・無頼。 正直ボルテなら愛梨よりは強い・・・と思う。 苦手な戦法は木枯らしらしい。 どうも嵌めに弱いようだ。 大会は未出場。 3では出たいと思っているらしい。 流星2は無くしたとの事。 FTKと改造は切断する。 アイコンは ベルセルク=アイスペガサス(GX) シノビ=非公開 流星3は黒を購入とのこと ロックマン EXE EXE5以外は一通りやっている。 特に2と4はやりこんだ。 4は今13週目らしい。 こいつの夏休みはエアシュートに賭けたと言っても過言ではないだろう。 B+← のコマンドでエアシュートの改造カードを使用し極めている。 エアシュートを外さず・チップ無使用でダークロックマンを倒したり。 暇なときははエアシュートでシンクロを狙い、ダークバルカン連射などをして遊んでいる。 備考 基本話掛けられたら対応はする。 メールはフリーにしてもらってokらしい。 最近携帯を取り戻した。
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/5848.html
カードリスト ゼロクリーチャー ゼロ呪文 ゼロクロスギア ゼロ城 ゼロD2フィールド ゼロオーラ ゼロタマシード SR VR 《頂神殿 ゼニシア》 R UC 《スタンダード・エイド/ロック・チャージャー》 C 《パラレラーズ デゥエマディメンション支店》
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1035.html
第2章 後編 「ティッツァーノ…… ”ちょっと”ってどれくらいだろうか……」 ―――魔法学院の教室は、いわゆる階段教室ってヤツだ。 全て石造りあることが、魔法学院ぽさを演出している。 スクアーロとルイズが中に入っていくと、先にやってきていた生徒たちが一斉に振り向いた。 二人に対する反応は、大きく分けると二種類あった。 嘲笑と好奇である。 明らかに前者が多いのだが、極わずかではあるが興味をもった生徒がいた。 圧倒的多数がくすくすと笑い始める。 その中に、朝に出会った赤い髪の美人… キュルケもいた。 キュルケも笑ってはいたが、微笑みと表現した方がしっくりくる。 そう好意的に解釈していると、手を軽く挙げた。 こちらも笑顔で手を振り返す。 キュルケがさらに笑顔と、投げキッスを返してくれた。 ニョホホ♪ ! ルイズの背中に”鬼の貌”が!……見えた気がする。 鮫とキュルケのやり取りにキュルケの取り巻き達の笑顔が消える。 その光景を見て、少しは溜飲が下がったらしい。(取り巻き達の分だけ) キュルケへの対応は今は不問にされた。今は…。 「…さっきの”挨拶”については、また後でね?」 ……ヤバイってレベルじゃねぇぞ? これ…。 ルイズの席にたどり着くまでは気を抜けない。 二人をくすくす笑う男子生徒には、「パッショーネ謹製」の”ガン”を飛ばす。 こちらの様子を伺う女子生徒には、笑顔と”ammicco(アンミッコ)”をプレゼントして差し上げた。 ammicco(伊:ウィンク) ……なにやら顔を赤くしている男子生徒Aが… 気のせいだ。 うん。気のせいにしよう。 流石にやりすぎたのか、席に着く前に二度ほど怒られた。 良い感じで教室が混沌としてきたぞ! ルイズのため椅子を引く。相変わらず上品に座りなさる。 「…隣に座っても… いけませんよね?」 「わかってるじゃない?」 勝ち誇ったような顔で、”着席は許可しないィィィッ!”と言われた。 スタンド使いの口調になってるぞ? ……オレの影響(せい)か? しぶしぶ床へ直に座る。床というか通路だが、ここ以外は狭すぎる。 …なんかオレ、丸くなってきたよな……。 …異世界にいるせいか? 周りには本当に奇妙な生物… 悪魔や妖魔、バケモノたちが蠢いていた。 窓の外を見ると、教室のドアを通りそうにない使い魔たちがおとなしくお座りしている。 (意外とデカイのがいるな… 小動物サイズが基本だと思っていたが…) ドアから中年女性が入ってきた。 いかにも”魔法を使いますよー!”といった服装である。とてもオサレです。 「皆さん。春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ――」 シュヴルーズ先生ね… 覚えたぞ。 隣のルイズが俯いている。なんで? 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 教室中が笑いに包まれる。今までで一番大きい爆笑だ。 「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いてた平民連れてくるなよ!」 「そうだ! せめて、仙道でも使える紳士を連れくればよかろうなのだァァ!」 (嗚呼… そういうことか… なんか悪いな、ルイズ。 …仙道て何?) (でもちょいと、からかい過ぎじゃないか? おまえ等…) おにいさん、ブチギレちゃうぞ?と首を鳴らしていると、ルイズが立ち上がった。 「違うわ! きちんと召喚したもの!」 そうだ。しかも異世界からだぞ? スタンド使いだぞ!? スゴイぞー! カッコイイぞー! 「召喚したけど、こいつが来ちゃっただけ!」 ……結構な仰り様だな? 御主人様…。 その後、ルイズはマリコルヌとかいうヤツと罵り合う。ほんとに元気だな。 ルイズ「UREEYYY!」 マリコ「KWAHHHH!」 ……おい、どっちも人間辞めてないか? 不毛な口喧嘩は、シュヴルーズ先生の魔法によって終結した。 しかし、元はといえばこの先生の一言からじゃないか? ……この後、本来の目的”魔法のお勉強”に入っていった。 勉強は好きじゃない。 ……苦手なわけじゃねぇぞ? 「やればできる子ですから」 ティッツァーノ談 だが、ルイズにすれば、今日は”基礎の復習”みたいなもんらしい。 ……頑張って聞いてみる。情報は大切だからな。 魔法は五系統。いま使われてるのは四系統。 金属の加工とかはメイジがやってる。 というか、”科学”に当たる仕事は全てメイジの領分みたいだ。 目の前で『錬金』を見た。確かに魔法だ。 素直に感激した。これでメイジ様々ということが理解できた。 「…ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジ…」 「…私は『トライアングル』ですから…」 御主人様の肘をつんつんとつつく。 授業に集中していたルイズはビクッと体を振るわせる。 「…ッ! 何よ! ビックリするじゃない!(小声)」 「いやな、『スクウェア』とか『トライアングル』って何のことだ? レベルとかランクか?」 「…そうよ。『ドット』、『ライン』、『トライアングル』、『スクウェア』…」 足すことができる数が多いほど強いらしい。 なるほど。 ……”先生”で『トライアングル』か…。 「生徒のレベルってのは、学年ごとにほぼ一緒かい? ルイズは?」 急にルイズは黙ってしまった。 しまった! これは禁句だったか! 「いや、言いたくなければいいんだ。ルイズ…」 「ミス・ヴァリエール! 授業に集中なさい! 使い魔とのお喋りはいつでもできますよ!」 「は、はい! すいませんでした…」 またオレのせいで怒られた。 本当にすまん…。 「それではミス・ヴァリエール。 あなたに名誉挽回のチャンスを与えましょう」 ミス・シュブルーズは机の上にある石ころを指しながら続ける。 「ここの石ころを『錬金』してみてください」 一気に教室が静寂に包まれる。使い魔まで静かになった気がする まるで”止まった時の世界”に入門したみたいだ! ……入門したこと無いけどな。 「やめた方が良いかと。 その方がみんな、幸せになれます」 キュルケが時を動かすと、皆一斉に喋りだす。 「やめろッ! 人間の寿命はどうせ短い 死に急ぐ必要もなかろうッ!」 「こいつは グレートにまいったぜェ…」 「お…恐ろしいッ おれは恐ろしい!」 「安っぽい感情で動いてるんじゃあないッ!」 ……生徒たちの本音はどうやら逆効果のようであった。 すっと立ち上がるルイズ。 「やります」 当然オレはこの少女が周りからの暴言・侮辱を受けた事で、 パニックと敗北と反逆の表情をするだろうと思った。 しかし… 彼女はそのどの表情もしなかった…。 少女は微笑んでいたのだ……。 ただ 平然ともの静かに微笑んでオレを一瞥してから前を見ていた……。 その表情には「光り輝くさわやかさ」さえあるようにオレには感じられた……。 …逆に考えるのよルイズ。 『ヤッちゃってもいいのさ』って考えるのよ。 …今までは失敗しないよう、縮こまっていたわ。 でも、今日は違う! 思い切りイクわッ! だって昨日確かに『サモン・サーヴァント』は成功したもの! すでにッ! ”魔法”は成功しているッ! この事実は誰も否定できないッ! ……思いっきりされてるけどね……。 …きっと今日もできる。 一度じゃ無理かもしれない。 昨日も何度も失敗したわ。 それは認める。 でも成功したもの! 私はやれるッ! もうゼロのルイズなんて誰にも言わせない! 見てなさい! すんごいの錬金してみせる! あの使い魔にも御主人様の凄さを見せ付けてやるわッ! 偉大な御主人様のッ! 華麗なる魔法をッ! る オ オ オ オ オ !! ―――ルイズが教壇に向かうと同時に生徒たちが隠れだした。 「……何してんだ? おい、何で隠れる?」 男子生徒B「…君も早く隠れたほうが良いよ」 「?」 いまいち状況を把握できないでいるとルイズがすでにルーンを唱えていた。 「使い魔のだんな! 窓から離れろーッ!」 先ほど頬を赤く染めていた男子生徒Aが叫ぶ。 教壇で一つ奇跡が起こった。小宇宙大爆発(ビックバン)である。 …そう表現しなければミス・シュヴルーズに申し訳が立たない……。 男子生徒Aのおかげで、爆風の通り道から逃げ、直撃だけは避ける事ができた。 「…スゲーな。 まさか…ルイズがここまでやるとは」 多少の傷はあるが、直撃を受けるより完全にマシだ。 教室に戻るとそこは阿鼻叫喚・地獄絵図だった。 爆発の中心にいたミス・シュヴルーズは……。 ………。 …………。 ………あ、動いてる。 生徒たちはほとんど無傷であったが、それぞれの使い魔が暴れだして手に負えない。 …これを映画化したらハリウッドで大ヒット間違いなし! そんな迫力がある。 あ、小太り(マルコ?マリコ?ま、どうでもいいか…)が大蛇に…。 腹壊すなよ大蛇君……。 グランド・ゼロ(爆心地)にいるゼロのルイズの様子を急いで見に行く。 なんという幸運! 爆発・爆風の被害が一番軽いとこにいた。 服はぼろぼろ、全身は煤で汚れていたが、奇跡的に無傷だ。 近寄り、抱き寄せる。 流石に拒絶はしなかった。 「大丈夫か!? ケガは? 頭打ってないか?」 「だ、大丈夫」 「そうか! 良かった…」 「…良くないわ」 「! やっぱりイテーとこあんのか!?」 「ちょ…」 「ちょ?」 「”ちょっと”失敗しちゃった☆」 「「「「おいッ! ”ちょっと”じゃ無いだろッ! ゼロのルイズッ!」」」」 ルイズとスクアーロ以外の全員が、声を揃えて非難を浴びせる。 ……その通りだ。 今回ばかりは……。 「何が起こったんだァーーーッ!」 「爆発だァーーーッ 近づくなーッ 近づくなーッ」 「危険だーッ なんで教室が爆発するんだァァーー」 他の教室から先生や生徒が騒ぎを嗅ぎ付けてやってくる。 こりゃあ、もう授業どころじゃないな……。 ……オレの御主人様は、”ちょっと”魔法が苦手らしい。 ”ちょっと”(本人談)だけ……。 「『言葉』は自由でもあり、不自由でもある」ってティッツァが言ってたっけ……。 トーキングヘッドの重要性に、今日もまた、気付けたぜ……。 「The Story of the "Clash and Zero"」 第2章 ゼロのルイズッ! 後編終了 To Be Continued ==